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ぐりっぷ建築設計事務所

風景と人をなじませる「十夜河原の家」
季刊チルチンびとNo.33 2005SUMMER 寄稿

 この「十夜河原の家」は、私達のアトリエそして両親と共に暮す二世帯住宅です。
 敷地は、地方都市近郊の農村集落の中にあります。最近はこの集落も空家が増えてきました。高齢世帯がそこで暮らせなくなったり、あるいは集落の外の田畑に建替えたりするからです。集落の空洞化は主に社会的な要因と個々の切実な事情で進んでいるのですが、一方、私達自身、目先の便利さや安直な快適さを求める余り、この古い集落の良さが見えなくなっているのも一因でしょう。
 この場所に相応しい等身大の暮しを、好ましく感じる住まいができないだろうか。そんな想いがこの家の設計の起点になっています。

固有の景観や時間の流れをつくる

 設計にあたっては集落の持つ魅力、時間を経て落ち着きある環境をきちんと掘り起こすことを考えました。切妻屋根の土蔵が通りに添って点在する、この景色を強調しつつ親しみやすい表情を持つように、建物の姿を決めました。外壁や板塀は、風景になじみ時間の経過を受けとめてくれる素材として地元産の杉板を使っています。結果として肩肘を張らない、なじみの良いたたずまいとなったようです。竣工後、訪ねてくる方が新築の住宅と思わず通りすぎてしまうことが何度かありました。そんな時、私達は内心ちょっと嬉しくなります。

人を結ぶ仕掛け

 公民館の小さな広場と連続する様に開く前庭。隣の土蔵を借景とした北庭は、家の各所に光を注ぎ風を招きます。このふたつの庭を結ぶように、応接として使う土間を設けました。大きな窓で広場から北庭まで見通すようにしたのは、中の気配が通りに流れ出るのを期待してのこと。
 同居する二世帯が適当な距離をもって生活できるように、この家は土間を介して二棟に分かれています。ふたつの庭を結ぶこの土間が、ふたつの世帯を結び、人と地域を結んでいければ、と思っています。

現代的で快適な住まい

 省エネを謳う最新の機器類に頼るのではなく、冬の陽だまりの暖かさや夏の朝夕の涼しさを充分に活かすよう、窓や軒、外壁等に工夫を凝らしました。また、太陽光や風などの自然エネルギーを効果的に利用するため、コンクリート部分を外断熱して建物の熱容量を大きくすることや、断熱性能を高めることに努めています。
 この家は懐古的な姿をしていますが、景観だけでなく耐候性や経済的な木取り等を考えた末の姿です。過去を継承し未来につなぐには、現代の合理性が必要だと考えます。
 私達は、素材や部品の特性を活かし、機能を考えた飽きのこないシンプルなデザインを心掛けて設計しています。

十夜河原の家
出版物
土間(応接)から北庭を眺める.奥は借景した隣家の土蔵.
アトリエの2階を見上げる.床は自家のヒノキを切り出し製材所で挽いて作った.
家族が集まるオープンキッチン.右手は北庭.
西側外観.駐車スペースでもある前庭とハウチワカエデ.
広場からの外観.正面は土間(応接),左に子世帯,右に親世帯が住む二世帯住宅.
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